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    坊っちゃん (おれが下宿へ帰ったのは〜) (取扱ショップ:楽天ブックス)

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       ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
       おれが下宿へ帰ったのは七時少し前である。部屋へはいるとすぐ荷作りを始めたら、婆さんが驚いて、どうおしるのぞなもしと聞いた。お婆さん、東京へ行って奥さんを連れてくるんだと答えて勘定を済まして、すぐ汽車へ乗って浜へ来て港屋へ着くと、山嵐は二階で寝ていた。おれは早速辞表を書こうと思ったが、何と書いていいか分らないから、私儀(わたくしぎ)都合有之(これあり)辞職の上東京へ帰り申候(もうしそろ)につき左様御承知被下度候(さようごしょうちくだされたくそろ)以上とかいて校長宛(あて)にして郵便で出した。
       汽船は夜六時の出帆(しゅっぱん)である。山嵐もおれも疲れて、ぐうぐう寝込んで眼が覚めたら、午後二時であった。下女に巡査は来ないかと聞いたら参りませんと答えた。「赤シャツも野だも訴えなかったなあ」と二人は大きに笑った。
       その夜おれと山嵐はこの不浄(ふじょう)な地を離(はな)れた。船が岸を去れば去るほどいい心持ちがした。神戸から東京までは直行で新橋へ着いた時は、ようやく娑婆(しゃば)へ出たような気がした。山嵐とはすぐ分れたぎり今日まで逢う機会がない。

      ■『坊っちゃん』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。

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      坊っちゃん (翌日(あくるひ)おれは学校へ〜) (取扱ショップ:楽天ブックス)

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         ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
         翌日(あくるひ)おれは学校へ出て校長室へ入って談判を始めた。
        「何で私に辞表を出せと云わないんですか」
        「へえ?」と狸はあっけに取られている。
        「堀田には出せ、私には出さないで好(い)いと云う法がありますか」
        「それは学校の方の都合(つごう)で……」
        「その都合が間違(まちが)ってまさあ。私が出さなくって済むなら堀田だって、出す必要はないでしょう」
        「その辺は説明が出来かねますが――堀田君は去られてもやむをえんのですが、あなたは辞表をお出しになる必要を認めませんから」
         なるほど狸だ、要領を得ない事ばかり並べて、しかも落ち付き払(はら)ってる。おれは仕様がないから
        「それじゃ私も辞表を出しましょう。堀田君一人辞職させて、私が安閑(あんかん)として、留まっていられると思っていらっしゃるかも知れないが、私にはそんな不人情な事は出来ません」
        「それは困る。堀田も去りあなたも去ったら、学校の数学の授業がまるで出来なくなってしまうから……」
        「出来なくなっても私の知った事じゃありません」
        「君そう我儘(わがまま)を云うものじゃない、少しは学校の事情も察してくれなくっちゃ困る。それに、来てから一月立つか立たないのに辞職したと云うと、君の将来の履歴(りれき)に関係するから、その辺も少しは考えたらいいでしょう」
        「履歴なんか構うもんですか、履歴より義理が大切です」
        「そりゃごもっとも――君の云うところは一々ごもっともだが、わたしの云う方も少しは察して下さい。君が是非辞職すると云うなら辞職されてもいいから、代りのあるまでどうかやってもらいたい。とにかく、うちでもう一返考え直してみて下さい」


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        坊っちゃん (温泉(ゆ)の町を振り返ると、〜) (取扱ショップ:楽天ブックス)

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          ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
           温泉(ゆ)の町を振り返ると、赤い灯が、月の光の中にかがやいている。太鼓(たいこ)が鳴るのは遊廓に相違ない。川の流れは浅いけれども早いから、神経質の水のようにやたらに光る。ぶらぶら土手の上をあるきながら、約三丁も来たと思ったら、向うに人影(ひとかげ)が見え出した。月に透(す)かしてみると影は二つある。温泉(ゆ)へ来て村へ帰る若い衆(しゅ)かも知れない。それにしては唄(うた)もうたわない。存外静かだ。
           だんだん歩いて行くと、おれの方が早足だと見えて、二つの影法師が、次第に大きくなる。一人は女らしい。おれの足音を聞きつけて、十間ぐらいの距離(きょり)に逼った時、男がたちまち振り向いた。月は後(うしろ)からさしている。その時おれは男の様子を見て、はてなと思った。男と女はまた元の通りにあるき出した。おれは考えがあるから、急に全速力で追っ懸(か)けた。先方は何の気もつかずに最初の通り、ゆるゆる歩を移している。今は話し声も手に取るように聞える。土手の幅は六尺ぐらいだから、並んで行けば三人がようやくだ。おれは苦もなく後ろから追い付いて、男の袖(そで)を擦(す)り抜(ぬ)けざま、二足前へ出した踵(くびす)をぐるりと返して男の顔を覗(のぞ)き込(こ)んだ。月は正面からおれの五分刈(がり)の頭から顋の辺(あた)りまで、会釈(えしゃく)もなく照(てら)す。男はあっと小声に云ったが、急に横を向いて、もう帰ろうと女を促(うな)がすが早いか、温泉(ゆ)の町の方へ引き返した。
           赤シャツは図太くて胡魔化すつもりか、気が弱くて名乗り損(そく)なったのかしら。ところが狭くて困ってるのは、おればかりではなかった。



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          坊っちゃん (分り過ぎて困るくらいだ。〜) (取扱ショップ:楽天ブックス)

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            ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
             分り過ぎて困るくらいだ。この容子(ようす)じゃおれの天麩羅(てんぷら)や団子(だんご)の事も知ってるかも知れない。厄介(やっかい)な所だ。しかしお蔭様(かげさま)でマドンナの意味もわかるし、山嵐と赤シャツの関係もわかるし大いに後学になった。ただ困るのはどっちが悪る者だか判然しない。おれのような単純なものには白とか黒とか片づけてもらわないと、どっちへ味方をしていいか分らない。
            「赤シャツと山嵐たあ、どっちがいい人ですかね」
            「山嵐て何ぞなもし」
            「山嵐というのは堀田の事ですよ」
            「そりゃ強い事は堀田さんの方が強そうじゃけれど、しかし赤シャツさんは学士さんじゃけれ、働きはある方(かた)ぞな、もし。それから優しい事も赤シャツさんの方が優しいが、生徒の評判は堀田さんの方がええというぞなもし」
            「つまりどっちがいいんですかね」
            「つまり月給の多い方が豪(えら)いのじゃろうがなもし」
             これじゃ聞いたって仕方がないから、やめにした。それから二三日して学校から帰るとお婆さんがにこにこして、へえお待遠さま。やっと参りました。と一本の手紙を持って来てゆっくりご覧と云って出て行った。取り上げてみると清からの便りだ。符箋(ふせん)が二三枚(まい)ついてるから、よく調べると、山城屋から、いか銀の方へ廻(まわ)して、いか銀から、萩野(はぎの)へ廻って来たのである。その上山城屋では一週間ばかり逗留(とうりゅう)している。宿屋だけに手紙まで泊(とめ)るつもりなんだろう。開いてみると、非常に長いもんだ。坊(ぼ)っちゃんの手紙を頂いてから、すぐ返事をかこうと思ったが、あいにく風邪を引いて一週間ばかり寝(ね)ていたものだから、つい遅(おそ)くなって済まない。その上今時のお嬢さんのように読み書きが達者でないものだから、こんなまずい字でも、かくのによっぽど骨が折れる。甥(おい)に代筆を頼もうと思ったが、せっかくあげるのに自分でかかなくっちゃ、坊っちゃんに済まないと思って、わざわざ下(し)たがきを一返して、それから清書をした。清書をするには二日で済んだが、下た書きをするには四日かかった。読みにくいかも知れないが、これでも一生懸命(いっしょうけんめい)にかいたのだから、どうぞしまいまで読んでくれ。という冒頭(ぼうとう)で四尺ばかり何やらかやら認(したた)めてある。なるほど読みにくい。字がまずいばかりではない、大抵(たいてい)平仮名だから、どこで切れて、どこで始まるのだか句読(くとう)をつけるのによっぽど骨が折れる。おれは焦(せ)っ勝(か)ちな性分だから、こんな長くて、分りにくい手紙は、五円やるから読んでくれと頼まれても断わるのだが、この時ばかりは真面目(まじめ)になって、始(はじめ)から終(しまい)まで読み通した。読み通した事は事実だが、読む方に骨が折れて、意味がつながらないから、また頭から読み直してみた。部屋のなかは少し暗くなって、前の時より見にくく、なったから、とうとう椽鼻(えんばな)へ出て腰(こし)をかけながら鄭寧(ていねい)に拝見した。すると初秋(はつあき)の風が芭蕉(ばしょう)の葉を動かして、素肌(すはだ)に吹(ふ)きつけた帰りに、読みかけた手紙を庭の方へなびかしたから、しまいぎわには四尺あまりの半切れがさらりさらりと鳴って、手を放すと、向(むこ)うの生垣まで飛んで行きそうだ。おれはそんな事には構っていられない。坊っちゃんは竹を割ったような気性だが、ただ肝癪(かんしゃく)が強過ぎてそれが心配になる。――ほかの人に無暗(むやみ)に渾名(あだな)なんか、つけるのは人に恨(うら)まれるもとになるから、やたらに使っちゃいけない、もしつけたら、清だけに手紙で知らせろ。――田舎者は人がわるいそうだから、気をつけてひどい目に遭(あ)わないようにしろ。――気候だって東京より不順に極ってるから、寝冷(ねびえ)をして風邪を引いてはいけない。坊っちゃんの手紙はあまり短過ぎて、容子がよくわからないから、この次にはせめてこの手紙の半分ぐらいの長さのを書いてくれ。――宿屋へ茶代を五円やるのはいいが、あとで困りゃしないか、田舎へ行って頼(たよ)りになるはお金ばかりだから、なるべく倹約(けんやく)して、万一の時に差支(さしつか)えないようにしなくっちゃいけない。――お小遣(こづかい)がなくて困るかも知れないから、為替(かわせ)で十円あげる。――先(せん)だって坊っちゃんからもらった五十円を、坊っちゃんが、東京へ帰って、うちを持つ時の足しにと思って、郵便局へ預けておいたが、この十円を引いてもまだ四十円あるから大丈夫だ。――なるほど女と云うものは細かいものだ。
             おれが椽鼻で清の手紙をひらつかせながら、考え込(こ)んでいると、しきりの襖(ふすま)をあけて、萩野のお婆さんが晩めしを持ってきた。まだ見てお出(い)でるのかなもし。えっぽど長いお手紙じゃなもし、と云ったから、ええ大事な手紙だから風に吹かしては見、吹かしては見るんだと、自分でも要領を得ない返事をして膳(ぜん)についた。見ると今夜も薩摩芋(さつまいも)の煮(に)つけだ。ここのうちは、いか銀よりも鄭寧(ていねい)で、親切で、しかも上品だが、惜(お)しい事に食い物がまずい。昨日も芋、一昨日(おととい)も芋で今夜も芋だ。おれは芋は大好きだと明言したには相違ないが、こう立てつづけに芋を食わされては命がつづかない。うらなり君を笑うどころか、おれ自身が遠からぬうちに、芋のうらなり先生になっちまう。清ならこんな時に、おれの好きな鮪(まぐろ)のさし身か、蒲鉾(かまぼこ)のつけ焼を食わせるんだが、貧乏(びんぼう)士族のけちん坊(ぼう)と来ちゃ仕方がない。どう考えても清といっしょでなくっちあ駄目(だめ)だ。もしあの学校に長くでも居る模様なら、東京から召(よ)び寄(よ)せてやろう。天麩羅蕎麦(そば)を食っちゃならない、団子を食っちゃならない、それで下宿に居て芋ばかり食って黄色くなっていろなんて、教育者はつらいものだ。禅宗(ぜんしゅう)坊主だって、これよりは口に栄耀(えよう)をさせているだろう。――おれは一皿の芋を平げて、机の抽斗(ひきだし)から生卵を二つ出して、茶碗(ちゃわん)の縁(ふち)でたたき割って、ようやく凌(しの)いだ。生卵ででも営養をとらなくっちあ一週二十一時間の授業が出来るものか。


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            坊っちゃん (おれは即夜(そくや)下宿を引き払(はら)った。〜) (取扱ショップ:楽天ブックス)

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              ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋


               おれは即夜(そくや)下宿を引き払(はら)った。宿へ帰って荷物をまとめていると、女房(にょうぼう)が何か不都合(ふつごう)でもございましたか、お腹の立つ事があるなら、云(い)っておくれたら改めますと云う。どうも驚(おど)ろく。世の中にはどうして、こんな要領を得ない者ばかり揃(そろ)ってるんだろう。出てもらいたいんだか、居てもらいたいんだか分(わか)りゃしない。まるで気狂(きちがい)だ。こんな者を相手に喧嘩(けんか)をしたって江戸(えど)っ子の名折れだから、車屋をつれて来てさっさと出てきた。
               出た事は出たが、どこへ行くというあてもない。車屋が、どちらへ参りますと云うから、だまって尾(つ)いて来い、今にわかる、と云って、すたすたやって来た。面倒(めんどう)だから山城屋へ行こうかとも考えたが、また出なければならないから、つまり手数だ。こうして歩いてるうちには下宿とか、何とか看板のあるうちを目付け出すだろう。そうしたら、そこが天意に叶(かな)ったわが宿と云う事にしよう。とぐるぐる、閑静(かんせい)で住みよさそうな所をあるいているうち、とうとう鍛冶屋町(かじやちょう)へ出てしまった。ここは士族屋敷(やしき)で下宿屋などのある町ではないから、もっと賑(にぎ)やかな方へ引き返そうかとも思ったが、ふといい事を考え付いた。おれが敬愛するうらなり君はこの町内に住んでいる。うらなり君は土地の人で先祖代々の屋敷を控(ひか)えているくらいだから、この辺の事情には通じているに相違(そうい)ない。あの人を尋(たず)ねて聞いたら、よさそうな下宿を教えてくれるかも知れない。幸(さいわい)一度挨拶(あいさつ)に来て勝手は知ってるから、捜(さ)がしてあるく面倒はない。ここだろうと、いい加減に見当をつけて、ご免(めん)ご免と二返ばかり云うと、奥(おく)から五十ぐらいな年寄(としより)が古風な紙燭(しそく)をつけて、出て来た。おれは若い女も嫌(きら)いではないが、年寄を見ると何だかなつかしい心持ちがする。大方清(きよ)がすきだから、その魂(たましい)が方々のお婆(ばあ)さんに乗り移るんだろう。これは大方うらなり君のおっ母(か)さんだろう。切り下げの品格のある婦人だが、よくうらなり君に似ている。まあお上がりと云うところを、ちょっとお目にかかりたいからと、主人を玄関(げんかん)まで呼び出して実はこれこれだが君どこか心当りはありませんかと尋ねてみた。うらなり先生それはさぞお困りでございましょう、としばらく考えていたが、この裏町に萩野(はぎの)と云って老人夫婦ぎりで暮(く)らしているものがある、いつぞや座敷(ざしき)を明けておいても無駄(むだ)だから、たしかな人があるなら貸してもいいから周旋(しゅうせん)してくれと頼(たの)んだ事がある。今でも貸すかどうか分らんが、まあいっしょに行って聞いてみましょうと、親切に連れて行ってくれた。


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              坊っちゃん (なるほど狸が狸なら、赤シャツも赤シャツだ。〜) (取扱ショップ:楽天ブックス)

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                ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
                 なるほど狸が狸なら、赤シャツも赤シャツだ。生徒があばれるのは、生徒がわるいんじゃない教師が悪るいんだと公言している。気狂(きちがい)が人の頭を撲(なぐ)り付けるのは、なぐられた人がわるいから、気狂がなぐるんだそうだ。難有(ありがた)い仕合せだ。活気にみちて困るなら運動場へ出て相撲(すもう)でも取るがいい、半ば無意識に床の中へバッタを入れられてたまるものか。この様子じゃ寝頸(ねくび)をかかれても、半ば無意識だって放免するつもりだろう。
                 おれはこう考えて何か云おうかなと考えてみたが、云うなら人を驚ろすかように滔々(とうとう)と述べたてなくっちゃつまらない、おれの癖として、腹が立ったときに口をきくと、二言か三言で必ず行き塞(つま)ってしまう。狸でも赤シャツでも人物から云うと、おれよりも下等だが、弁舌はなかなか達者だから、まずい事を喋舌(しゃべ)って揚足(あげあし)を取られちゃ面白くない。ちょっと腹案を作ってみようと、胸のなかで文章を作ってる。すると前に居た野だが突然起立したには驚ろいた。野だの癖に意見を述べるなんて生意気だ。野だは例のへらへら調で「実に今回のバッタ事件及び咄喊(とっかん)事件は吾々(われわれ)心ある職員をして、ひそかに吾(わが)校将来の前途(ぜんと)に危惧(きぐ)の念を抱(いだ)かしむるに足る珍事(ちんじ)でありまして、吾々職員たるものはこの際奮(ふる)って自ら省りみて、全校の風紀を振粛(しんしゅく)しなければなりません。それでただ今校長及び教頭のお述べになったお説は、実に肯綮(こうけい)に中(あた)った剴切(がいせつ)なお考えで私は徹頭徹尾(てっとうてつび)賛成致します。どうかなるべく寛大(かんだい)のご処分を仰(あお)ぎたいと思います」と云った。野だの云う事は言語はあるが意味がない、漢語をのべつに陳列(ちんれつ)するぎりで訳が分らない。分ったのは徹頭徹尾賛成致しますと云う言葉だけだ。


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                  ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
                   午後は、先夜おれに対して無礼を働いた寄宿生の処分法についての会議だ。会議というものは生れて始めてだからとんと容子(ようす)が分らないが、職員が寄って、たかって自分勝手な説をたてて、それを校長が好い加減に纏(まと)めるのだろう。纏めるというのは黒白(こくびゃく)の決しかねる事柄(ことがら)について云うべき言葉だ。この場合のような、誰が見たって、不都合としか思われない事件に会議をするのは暇潰(ひまつぶ)しだ。誰が何と解釈したって異説の出ようはずがない。こんな明白なのは即座(そくざ)に校長が処分してしまえばいいに。随分(ずいぶん)決断のない事だ。校長ってものが、これならば、何の事はない、煮(に)え切(き)らない愚図(ぐず)の異名だ。
                   会議室は校長室の隣(とな)りにある細長い部屋で、平常は食堂の代理を勤める。黒い皮で張った椅子(いす)が二十脚(きゃく)ばかり、長いテーブルの周囲に並(なら)んでちょっと神田の西洋料理屋ぐらいな格だ。そのテーブルの端(はじ)に校長が坐(すわ)って、校長の隣りに赤シャツが構える。あとは勝手次第に席に着くんだそうだが、体操(たいそう)の教師だけはいつも席末に謙遜(けんそん)するという話だ。おれは様子が分らないから、博物の教師と漢学の教師の間へはいり込(こ)んだ。向うを見ると山嵐と野だが並んでる。野だの顔はどう考えても劣等だ。喧嘩はしても山嵐の方が遥(はる)かに趣(おもむき)がある。おやじの葬式(そうしき)の時に小日向(こびなた)の養源寺(ようげんじ)の座敷(ざしき)にかかってた懸物はこの顔によく似ている。坊主(ぼうず)に聞いてみたら韋駄天(いだてん)と云う怪物だそうだ。今日は怒(おこ)ってるから、眼をぐるぐる廻しちゃ、時々おれの方を見る。そんな事で威嚇(おど)かされてたまるもんかと、おれも負けない気で、やっぱり眼をぐりつかせて、山嵐をにらめてやった。おれの眼は恰好(かっこう)はよくないが、大きい事においては大抵な人には負けない。あなたは眼が大きいから役者になるときっと似合いますと清がよく云ったくらいだ。
                   もう大抵お揃(そろ)いでしょうかと校長が云うと、書記の川村と云うのが一つ二つと頭数を勘定(かんじょう)してみる。一人足りない。一人不足ですがと考えていたが、これは足りないはずだ。唐茄子(とうなす)のうらなり君が来ていない。おれとうらなり君とはどう云う宿世(すくせ)の因縁かしらないが、この人の顔を見て以来どうしても忘れられない。控所へくれば、すぐ、うらなり君が眼に付く、途中(とちゅう)をあるいていても、うらなり先生の様子が心に浮(うか)ぶ。温泉へ行くと、うらなり君が時々蒼(あお)い顔をして湯壺(ゆつぼ)のなかに膨(ふく)れている。挨拶(あいさつ)をするとへえと恐縮(きょうしゅく)して頭を下げるから気の毒になる。学校へ出てうらなり君ほど大人しい人は居ない。めったに笑った事もないが、余計な口をきいた事もない。おれは君子という言葉を書物の上で知ってるが、これは字引にあるばかりで、生きてるものではないと思ってたが、うらなり君に逢(あ)ってから始めて、やっぱり正体のある文字だと感心したくらいだ。


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                  坊っちゃん (おれはここまで考えたら、〜) (取扱ショップ:楽天ブックス)

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                    ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
                     おれはここまで考えたら、眠(ねむ)くなったからぐうぐう寝(ね)てしまった。あくる日は思う仔細(しさい)があるから、例刻より早ヤ目に出校して山嵐を待ち受けた。ところがなかなか出て来ない。うらなりが出て来る。漢学の先生が出て来る。野だが出て来る。しまいには赤シャツまで出て来たが山嵐の机の上は白墨(はくぼく)が一本竪(たて)に寝ているだけで閑静(かんせい)なものだ。おれは、控所(ひかえじょ)へはいるや否や返そうと思って、うちを出る時から、湯銭のように手の平へ入れて一銭五厘、学校まで握(にぎ)って来た。おれは膏(あぶら)っ手だから、開けてみると一銭五厘が汗(あせ)をかいている。汗をかいてる銭を返しちゃ、山嵐が何とか云うだろうと思ったから、机の上へ置いてふうふう吹いてまた握った。ところへ赤シャツが来て昨日は失敬、迷惑(めいわく)でしたろうと云ったから、迷惑じゃありません、お蔭で腹が減りましたと答えた。すると赤シャツは山嵐の机の上へ肱(ひじ)を突(つ)いて、あの盤台面(ばんだいづら)をおれの鼻の側面へ持って来たから、何をするかと思ったら、君昨日返りがけに船の中で話した事は、秘密にしてくれたまえ。まだ誰(だれ)にも話しやしますまいねと云った。女のような声を出すだけに心配性な男と見える。話さない事はたしかである。しかしこれから話そうと云う心持ちで、すでに一銭五厘手の平に用意しているくらいだから、ここで赤シャツから口留めをされちゃ、ちと困る。赤シャツも赤シャツだ。山嵐と名を指さないにしろ、あれほど推察の出来る謎(なぞ)をかけておきながら、今さらその謎を解いちゃ迷惑だとは教頭とも思えぬ無責任だ。元来ならおれが山嵐と戦争をはじめて鎬(しのぎ)を削(けず)ってる真中(まんなか)へ出て堂々とおれの肩(かた)を持つべきだ。それでこそ一校の教頭で、赤シャツを着ている主意も立つというもんだ。


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                      ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
                       港屋の二階に灯が一つついて、汽車の笛(ふえ)がヒューと鳴るとき、おれの乗っていた舟は磯(いそ)の砂へざぐりと、舳(へさき)をつき込んで動かなくなった。お早うお帰りと、かみさんが、浜に立って赤シャツに挨拶(あいさつ)する。おれは船端(ふなばた)から、やっと掛声(かけごえ)をして磯へ飛び下りた。




                      ■『坊っちゃん』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。


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                        ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
                         船頭はゆっくりゆっくり漕(こ)いでいるが熟練は恐(おそろ)しいもので、見返(みか)えると、浜が小さく見えるくらいもう出ている。高柏寺(こうはくじ)の五重の塔(とう)が森の上へ抜(ぬ)け出して針のように尖(とん)がってる。向側(むこうがわ)を見ると青嶋(あおしま)が浮いている。これは人の住まない島だそうだ。よく見ると石と松(まつ)ばかりだ。なるほど石と松ばかりじゃ住めっこない。赤シャツは、しきりに眺望(ちょうぼう)していい景色だと云ってる。野だは絶景でげすと云ってる。絶景だか何だか知らないが、いい心持ちには相違ない。ひろびろとした海の上で、潮風に吹(ふ)かれるのは薬だと思った。いやに腹が減る。「あの松を見たまえ、幹が真直(まっすぐ)で、上が傘(かさ)のように開いてターナーの画にありそうだね」と赤シャツが野だに云うと、野だは「全くターナーですね。どうもあの曲り具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」と心得顔である。ターナーとは何の事だか知らないが、聞かないでも困らない事だから黙(だま)っていた。舟は島を右に見てぐるりと廻(まわ)った。波は全くない。これで海だとは受け取りにくいほど平(たいら)だ。赤シャツのお陰(かげ)ではなはだ愉快(ゆかい)だ。出来る事なら、あの島の上へ上がってみたいと思ったから、あの岩のある所へは舟はつけられないんですかと聞いてみた。つけられん事もないですが、釣をするには、あまり岸じゃいけないですと赤シャツが異議を申し立てた。おれは黙ってた。すると野だがどうです教頭、これからあの島をターナー島と名づけようじゃありませんかと余計な発議(ほつぎ)をした。赤シャツはそいつは面白い、吾々(われわれ)はこれからそう云おうと賛成した。この吾々のうちにおれもはいってるなら迷惑(めいわく)だ。おれには青嶋でたくさんだ。あの岩の上に、どうです、ラフハエルのマドンナを置いちゃ。いい画が出来ますぜと野だが云うと、マドンナの話はよそうじゃないかホホホホと赤シャツが気味の悪るい笑い方をした。なに誰も居ないから大丈夫(だいじょうぶ)ですと、ちょっとおれの方を見たが、わざと顔をそむけてにやにやと笑った。おれは何だかやな心持ちがした。マドンナだろうが、小旦那(こだんな)だろうが、おれの関係した事でないから、勝手に立たせるがよかろうが、人に分らない事を言って分らないから聞いたって構やしませんてえような風をする。下品な仕草だ。これで当人は私(わたし)も江戸(えど)っ子でげすなどと云ってる。マドンナと云うのは何でも赤シャツの馴染(なじみ)の芸者の渾名(あだな)か何かに違いないと思った。なじみの芸者を無人島の松の木の下に立たして眺(なが)めていれば世話はない。それを野だが油絵にでもかいて展覧会へ出したらよかろう。




                        ■『坊っちゃん』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。

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