スポンサーサイト

0

    一定期間更新がないため広告を表示しています

    • | - |
    • |
    • - |
    • - |
    • - |

    坊っちゃん (分り過ぎて困るくらいだ。〜) (取扱ショップ:楽天ブックス)

    0
      【送料無料】坊っちゃん改版 [ 夏目漱石 ]

      【送料無料】坊っちゃん改版 [ 夏目漱石 ]
      価格:326円(税込、送料込)



      ■青空文庫から『坊っちゃん』を一部抜粋
       分り過ぎて困るくらいだ。この容子(ようす)じゃおれの天麩羅(てんぷら)や団子(だんご)の事も知ってるかも知れない。厄介(やっかい)な所だ。しかしお蔭様(かげさま)でマドンナの意味もわかるし、山嵐と赤シャツの関係もわかるし大いに後学になった。ただ困るのはどっちが悪る者だか判然しない。おれのような単純なものには白とか黒とか片づけてもらわないと、どっちへ味方をしていいか分らない。
      「赤シャツと山嵐たあ、どっちがいい人ですかね」
      「山嵐て何ぞなもし」
      「山嵐というのは堀田の事ですよ」
      「そりゃ強い事は堀田さんの方が強そうじゃけれど、しかし赤シャツさんは学士さんじゃけれ、働きはある方(かた)ぞな、もし。それから優しい事も赤シャツさんの方が優しいが、生徒の評判は堀田さんの方がええというぞなもし」
      「つまりどっちがいいんですかね」
      「つまり月給の多い方が豪(えら)いのじゃろうがなもし」
       これじゃ聞いたって仕方がないから、やめにした。それから二三日して学校から帰るとお婆さんがにこにこして、へえお待遠さま。やっと参りました。と一本の手紙を持って来てゆっくりご覧と云って出て行った。取り上げてみると清からの便りだ。符箋(ふせん)が二三枚(まい)ついてるから、よく調べると、山城屋から、いか銀の方へ廻(まわ)して、いか銀から、萩野(はぎの)へ廻って来たのである。その上山城屋では一週間ばかり逗留(とうりゅう)している。宿屋だけに手紙まで泊(とめ)るつもりなんだろう。開いてみると、非常に長いもんだ。坊(ぼ)っちゃんの手紙を頂いてから、すぐ返事をかこうと思ったが、あいにく風邪を引いて一週間ばかり寝(ね)ていたものだから、つい遅(おそ)くなって済まない。その上今時のお嬢さんのように読み書きが達者でないものだから、こんなまずい字でも、かくのによっぽど骨が折れる。甥(おい)に代筆を頼もうと思ったが、せっかくあげるのに自分でかかなくっちゃ、坊っちゃんに済まないと思って、わざわざ下(し)たがきを一返して、それから清書をした。清書をするには二日で済んだが、下た書きをするには四日かかった。読みにくいかも知れないが、これでも一生懸命(いっしょうけんめい)にかいたのだから、どうぞしまいまで読んでくれ。という冒頭(ぼうとう)で四尺ばかり何やらかやら認(したた)めてある。なるほど読みにくい。字がまずいばかりではない、大抵(たいてい)平仮名だから、どこで切れて、どこで始まるのだか句読(くとう)をつけるのによっぽど骨が折れる。おれは焦(せ)っ勝(か)ちな性分だから、こんな長くて、分りにくい手紙は、五円やるから読んでくれと頼まれても断わるのだが、この時ばかりは真面目(まじめ)になって、始(はじめ)から終(しまい)まで読み通した。読み通した事は事実だが、読む方に骨が折れて、意味がつながらないから、また頭から読み直してみた。部屋のなかは少し暗くなって、前の時より見にくく、なったから、とうとう椽鼻(えんばな)へ出て腰(こし)をかけながら鄭寧(ていねい)に拝見した。すると初秋(はつあき)の風が芭蕉(ばしょう)の葉を動かして、素肌(すはだ)に吹(ふ)きつけた帰りに、読みかけた手紙を庭の方へなびかしたから、しまいぎわには四尺あまりの半切れがさらりさらりと鳴って、手を放すと、向(むこ)うの生垣まで飛んで行きそうだ。おれはそんな事には構っていられない。坊っちゃんは竹を割ったような気性だが、ただ肝癪(かんしゃく)が強過ぎてそれが心配になる。――ほかの人に無暗(むやみ)に渾名(あだな)なんか、つけるのは人に恨(うら)まれるもとになるから、やたらに使っちゃいけない、もしつけたら、清だけに手紙で知らせろ。――田舎者は人がわるいそうだから、気をつけてひどい目に遭(あ)わないようにしろ。――気候だって東京より不順に極ってるから、寝冷(ねびえ)をして風邪を引いてはいけない。坊っちゃんの手紙はあまり短過ぎて、容子がよくわからないから、この次にはせめてこの手紙の半分ぐらいの長さのを書いてくれ。――宿屋へ茶代を五円やるのはいいが、あとで困りゃしないか、田舎へ行って頼(たよ)りになるはお金ばかりだから、なるべく倹約(けんやく)して、万一の時に差支(さしつか)えないようにしなくっちゃいけない。――お小遣(こづかい)がなくて困るかも知れないから、為替(かわせ)で十円あげる。――先(せん)だって坊っちゃんからもらった五十円を、坊っちゃんが、東京へ帰って、うちを持つ時の足しにと思って、郵便局へ預けておいたが、この十円を引いてもまだ四十円あるから大丈夫だ。――なるほど女と云うものは細かいものだ。
       おれが椽鼻で清の手紙をひらつかせながら、考え込(こ)んでいると、しきりの襖(ふすま)をあけて、萩野のお婆さんが晩めしを持ってきた。まだ見てお出(い)でるのかなもし。えっぽど長いお手紙じゃなもし、と云ったから、ええ大事な手紙だから風に吹かしては見、吹かしては見るんだと、自分でも要領を得ない返事をして膳(ぜん)についた。見ると今夜も薩摩芋(さつまいも)の煮(に)つけだ。ここのうちは、いか銀よりも鄭寧(ていねい)で、親切で、しかも上品だが、惜(お)しい事に食い物がまずい。昨日も芋、一昨日(おととい)も芋で今夜も芋だ。おれは芋は大好きだと明言したには相違ないが、こう立てつづけに芋を食わされては命がつづかない。うらなり君を笑うどころか、おれ自身が遠からぬうちに、芋のうらなり先生になっちまう。清ならこんな時に、おれの好きな鮪(まぐろ)のさし身か、蒲鉾(かまぼこ)のつけ焼を食わせるんだが、貧乏(びんぼう)士族のけちん坊(ぼう)と来ちゃ仕方がない。どう考えても清といっしょでなくっちあ駄目(だめ)だ。もしあの学校に長くでも居る模様なら、東京から召(よ)び寄(よ)せてやろう。天麩羅蕎麦(そば)を食っちゃならない、団子を食っちゃならない、それで下宿に居て芋ばかり食って黄色くなっていろなんて、教育者はつらいものだ。禅宗(ぜんしゅう)坊主だって、これよりは口に栄耀(えよう)をさせているだろう。――おれは一皿の芋を平げて、机の抽斗(ひきだし)から生卵を二つ出して、茶碗(ちゃわん)の縁(ふち)でたたき割って、ようやく凌(しの)いだ。生卵ででも営養をとらなくっちあ一週二十一時間の授業が出来るものか。


      ■『坊っちゃん』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。

      JUGEMテーマ:小説/詩
       

      スポンサーサイト

      0
        • | - |
        • 01:14 |
        • - |
        • - |
        • - |
        << 坊っちゃん (おれは即夜(そくや)下宿を引き払(はら)った。〜) (取扱ショップ:楽天ブックス) | TOP | 坊っちゃん (温泉(ゆ)の町を振り返ると、〜) (取扱ショップ:楽天ブックス) >>